名古屋高等裁判所 昭和43年(行コ)9号 判決 1971年2月23日
名古屋市北区志賀町五丁目四八番地
控訴人
鈴木政之
右訴訟代理人弁護士
大橋茂美
右訴訟復代理人弁護士
村橋泰志
同市同区金作町四丁目一番地
被控訴人
名古屋北税務署長
宮田勝吉
右指定代理人
中村盛雄
野々村昭二
高橋健吉
酒井常雄
右当事者間の昭和四三年(行コ)第九号所得税等に対する裁決取消請求控訴事件につき、当裁判所は次のとおり判決する。
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
控訴代理人は「原判決を取り消す。名古屋東税務署長が控訴人に対し昭和三九年二月二九日付をもつてなした、(イ)控訴人の昭和三五年分所得税の決定(控訴状に「更正」とあるのは誤記と認める)および加算税額の賦課決定中、名古屋国税局長の昭和四一年三月二九日付審査決定により各一部取り消された部分を除く部分、ならびに(ロ)控訴人の昭和三六年分所得税の更正および加算税額の賦課決定は、いずれも、これを取り消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は主文同旨の判決を求めた。
当事者双方の事実上の陳述ならびに証拠の提出、援用および書証の認否は、左記に附加、訂正するもののほか原判決事実摘示のとおりであるから、ここにこれを引用する。
(一) 控訴代理人の陳述
(1) 控訴人は昭和三五年の営業方針として大口の仲介を狙い、使用人に対しては仕事に意欲を持たせるため固定給外に貸間の世話料の収入があればこれを全額与える方針であつたが、未熟練のため皆無であつた。
(2) 被控訴人主張の昭和三五年分事業所得の必要経費の費目のほかに、控訴人は事務所賃借のための権利金として金五万円、前借主に対する立退料として金六万六〇〇〇円、自動車修理代として金一〇万円を各支出した。また被控訴人主張の昭和三六年分必要経費の費目のほかに、控訴人は給料として金一二万円を支払つた。
(3) 同年分事業所得の必要経費に関する被控訴人の主張事実中、雇人費、自動車償却費、自動車税、広告宣伝費および事務消耗品雑費に関する部分はこれを認め、右各費目に関する控訴人の従前の主張を撤回する。
(4) 同年分事業所得の必要経費中ガソリン代の額に関する控訴人の従前の主張(一七万五〇〇〇円)を、一七万七二五六円と訂正する。
(5) 控訴人が不動産取引の営業を開始したのは昭和三五年四月二三日である。
(二) 被控訴代理人の陳述
(1) 控訴人は、名古屋西税務署在職中の昭和三五年一月頃から訴外嶋田雄典と共に不動産の仲介をなし、その後同年四月一五日同税務署を退職し、同年四月二三日宅地建物取引業の認可を受けて、同年六月頃から本格的に不動産の仲介行為を営むに至つた。したがつて控訴人は昭和三五年一月頃より対価を得て継続的に不動産仲介行為を行なつていたものというべきであるから、控訴人の同年中の不動産仲介行為による所得はすべて事業所得に該当する。
(2) 控訴人は、訴外長谷川正の依頼により同訴外人の土地の譲渡所得に対する課税を免れさせるため、訴外野崎じようらの名義を使用してあたかも右野崎らが所有者であるかのように仮装し、さらに、右野崎らの住民登録上の住所を転々と移転させて課税を困難にするように工作し、その対価として右長谷川から昭和三五年一二月六日および同年同月一七日の二回にわたり各金二〇〇万円宛合計金四〇〇万円を収入した。
控訴人は元税務署職員であり、右収入金額が課税の対象となることを熟知していたにもかかわらず、右工作手数料が脱税工作に対する対価であつたため故意に金銭出納帳等に記載せず、右収入の事実を隠ぺいし、その結果昭和三五年分の所得税確定申告をしなかつたものである。
また控訴人は、なんら正当な事由がなかつたにもかかわらず、名古屋東税務署長が昭和三九年二月二九日付で昭和三五年分の所得税決定処分をするまで、同年分の所得税の確定申告をしなかつたものである。
右の諸事実は所得税法(昭和三七年法律第六七号により改正される以前の所得税法。以下同所得税法という)第五六条第三項、第五七条第三項に各該当するところ、これらの規定を適用して控訴人の昭和三五年分所得税に関する各加算税額を算出すると、別紙第一、二表のとおり無申告加算税額は三一万五七五〇円、重加算税額は六〇万九〇〇〇円となる。
したがつて、右金額の範囲内でなされた原処分(裁決により取り消された部分を除き、無申告加算税一〇万三二五〇円、重加算税一九万一五〇〇円)にはなんら違法はない。
(3) 控訴人は昭和三六年分所得税の法定申告期限内に昭和三六年分の所得税額を一一五〇円と確定申告したのに対し、所轄税務署長は右税額を一二万二五〇〇円と更正したものであるところ、右更正税額の基礎となつた所得の認定が正当であることは従前主張のとおりであり、また控訴人が右のような過少申告をするにつき正当な理由はなんら存しない。よつて所轄税務署長は旧所得税法第五六条第一項の規定により右更正税額と申告税額の差額(千円未満の端数切捨)の五%にあたる六〇五〇円を過少申告加算税として賦課決定したものである。
(三) 証拠
(1) 控訴代理人は当審における証人長谷川正の証言および控訴人本人尋問の結果を援用し、乙第二三ないし第二七号証の各成立を認めた。
(2) 被控訴代理人は乙第二三ないし第二七号証を提出した。
理由
(出訴要件)
控訴人が昭和三五年分所得税の確定申告をしなかつたところ、名古屋東税務署長により控訴人主張の決定および加算税賦課決定がなされたこと、控訴人が昭和三六年分所得税につきその主張の確定申告をしたところ、同署長により控訴人主張の更正決定および加算税賦課決定がなされたこと、右各処分に対する控訴人の不服申立につき、同署長および名古屋国税局長からそれぞれ控訴人主張の各決定がなされたことは当事者間に争いがなく、名古屋東税務署長の所管事務が昭和三九年六月二九日名古屋北税務署長に移管されたことは、被控訴人が明らかに争わないから自白したものとみなすべきである。また本件記録によれば、本訴は当初名古屋国税局長を被告とする審査決定取消しの訴えとして昭和四一年七月四日受付をもつて提起されたが、その後被告および請求の趣旨の変更がなされたものであることが明らかであるところ、弁論の全趣旨によれば、控訴人が行政事件訴訟法第一四条所定の出訴期間を遵守したことを認めることができる。
(昭和三五年分所得について)
(一) 事業所得
1. 宅地建物取引業の開始
控訴人が昭和三五年四月一五日名古屋西税務署を退職し同年同月二三日宅地建物取引業の認可を受けたことは当事者間に争いがなく、成立に争いのない乙第二、三号証、原審における控訴人本人尋問の結果により成立を認めうる甲第四号証および同第八号証の一ないし七ならびに原審証人大須賀俊彦、同村田竹三郎の各証言を総合すると、控訴人は昭和三五年一月二〇日頃名古屋市千種区末盛通三丁目四〇番地所在の店舗一棟を賃借し、同所において東鉄洋行の商号のもとに訴外嶋田雄典と共同して不動産取引業を開始し、同年三月には単独開業のため資本金一二五万円を用意し、営業保証金を供託し電話、諸設備、什器、法令集等を整えた上、同年五月下旬頃右訴外人と手を切り、事務員を雇い挨拶状を発送して単独営業を開始するに至つたことを認めることができ、原審における控訴人本人尋問の結果中右の認定に反する部分は措信し難く、他に右の認定を左右するに足る証拠はない。右の諸事実によれば、控訴人は同年一月下旬頃から右訴外人と共同して、また同年五月下旬頃からは単独で、不動産取引業を営むに至つたことが明らかであるから、控訴人が右営業開始後不動産の取引、仲介等によつて得た所得は事業所得に該当するというべきである。
2. 工作手数料収入
控訴人が訴外長谷川正から昭和三五年一二月頃工作手数料として金二〇〇万円を受領したことは当事者間に争いがなく、成立に争いのない乙第一号証、同第二一ないし第二六号証、原審証人大山綱信、同松井清、同長谷川正の各証言および当審証人長谷川正の証言を総合すれば、右工作手数料の収入に至る経過についての被控訴人の主張事実(ただし、春山町の土地の買主は株式会社竹中工務店ではなく、武田薬品工業株式会社である。)を認めることができ、右の事実および前記認定の控訴人の開業に関する事実によれば、右収入は控訴人の事業所得に関するものであることが明らかである。
被控訴人は、控訴人が右金二〇〇万円のほか更に金二〇〇万円を訴外長谷川正から受領したと主張するが、後記説示の理由により、右の主張に対する判断を省略する。
3. 仲介手数料収入
成立に争いのない乙第三号証、前記甲第四号証および原審証人大山綱信、同大須賀俊彦の各証言によれば、控訴人はほか二名と共同して訴外荻須信義の依頼により名古屋市北区清水町二丁目二一番地の土地を訴外大野被服株式会社に売り渡す契約を斡旋し、昭和三五年五月金一〇万円を受領し、控訴人は内金三万三〇〇〇円の分配を受けて、同年同月二二日これを手数料収入として記帳した事実を認めることができる。原審における控訴人本人尋問の結果中右の認定に反する部分は前掲各証拠に比して措信し難く、他に右の認定を左右すべき証拠はない。
更に前記甲第四号証によれば、控訴人は右のほか昭和三五年六月一〇日から同年一二月二六日まで貸家、貸間等二七件の斡旋をして仲介手数料合計五万四八二〇円を収受し、また同年八月一六日から同年一二月二四日までの間五回にわたり土地、家屋の売買五件の斡旋をして仲介手数料合計金一六万九二一〇円を収受したことを認めることができる(前記工作手数料関係および後記売上収入関係の記帳分を除く)。控訴人は同年中仲介手数料の収入はなく、貸間の仲介料があれば全額使用人に与える方針であつたと主張するが、右甲第四号証によれば右の主張は理由のないことが明らかであり、右の認定を左右すべき証拠はない。
4. 売上収入
成立に争いのない乙第四号証、同第一八号証の一、二および原審証人大山綱信の証言を総合すれば、春日井市庄名町堤下七四〇番地の三の土地の売買代金等の収入に関する被控訴人の主張事実を認めることができ、原審における控訴人本人尋問の結果中右の認定に反する部分は前記甲第四号証(一二月一三日の記帳の四行目)および乙第四号証に比して措信し難く、他に右の認定を左右するに足る証拠はない。
5. 雑収入
前記甲第四号証、成立に争いのない乙第五、六号証および原審証人松井清の証言に弁論の全趣旨を総合すれば、控訴人は昭和三五年四月訴外丹羽せきから名古屋市千種区猪高町大字猪子石字福寿洞乙一一番七山林一反八畝を春日井冨貴子(同女は昭和三六年三月控訴人と結婚した)名義で買い受け、同年同月二二日司法書士に登記手続を依頼してその費用金一八五八円を支払い、翌二三日所有権移転登記を経由した上、同年一二月頃これを訴外新田のぶに対し右山林の現地を自己の所有地として案内した上同女と売買契約を結び、手附として金二〇万円を領収したが、同女が契約を履行しないことを理由として、手附流れとして没収し、これを自己の収入とした事実を認めることができる。原審における控訴人本人尋問の結果中右の認定に反する部分は前記各証拠と対比して措信し難く、他に右の認定を左右するに足る証拠はない。
6. 必要経費
控訴人が営業のため店舗を賃借したことは前記認定のとおりであり、前記甲第四号証、同第八号証の一ないし七および原審証人村田竹三郎の証言によれば、控訴人は右店舗の賃借に際し礼金の性質を有する権利金として金五万円を家主に支払い、昭和三五年二月から同年一二月まで毎月金八〇〇〇円宛合計金八万八〇〇〇円の賃料を支払つた事実を認めることができ、また右甲第四号証によれば控訴人は同年二月から一二月末日まで自動車用石油を購入しその代金合計金一八万五一〇八円を支払つたこと、および自動車修理費として合計金一万五〇七〇円を支出したことを認めることができ、右の各認定を左右するに足る証拠はない。
必要経費中被控訴人主張のその余の費目・金額については当事者間に争いがなく、控訴人主張のその余の費目・金額については、これを認めるに足る証拠がない。
以上を総合すれば控訴人の昭和三五年分事業所得の必要経費は合計金一一四万二〇六四円であることが明らかである。右以外の必要経費の支出を認めるに足る的確な証拠はない。
7. 事業所得
前記2.ないし5.に認定した事業収入合計金三〇四万六四二三円から6.に認定した必要経費金一一四万二〇六四円を差引いた事業所得金額は金一九〇万四三五九円となり、被控訴人の本件決定(名古屋国税局長の審査決定により取り消された部分を除く。以下において「本件変更後の決定」と称する)中に認定された金一七〇万九八一八円をこえる。したがつて、控訴人が更に金二〇〇万円の工作手数料を受領した旨の被控訴人の主張につき判断するまでもなく、被控訴人の右の認定は正当であることが明らかである。
(二) 給与所得
昭和三五年における控訴人の給与所得額が金四万三〇〇五円であることは当事者間に争いがない。
(三) 総所得金額および所得税額
控訴人の総所得金額は前記事業所得金額と給与所得金額を合計した金一九四万七三六四円であるから、本件変更後の決定が控訴人の昭和三五年分総所得金額を右正当な金額の範囲内において金一七四万八八二三円と決定したことについては、何らの違法も存しないというべきである。
昭和三六年法律第三五号による改正前の所得税法(以下旧所得税法と略称する)第二八条、第一二条によれば、確定申告書に基礎控除を除く所得控除に関する事項の記載がない場合には、第二八条ただし書、昭和三六年政令第六二条による改正前の所得税法施行規則第二六条第二項第二二条所定の場合を除き、基礎控除を除く所得控除に関する同法の規定は適用されないものであるから、右除外事由の存在については被課税者が主張、立証責任を負うものと解すべきであるところ、被控訴人は本件につき金九万円の基礎控除のほか金四九七八円の所得控除をなすべき旨主張する(別紙第一表(二)参照)ので、右基礎控除額以外の金額について右除外事由が存することを自認(先行自白)したものというべきである。
したがつて控訴人の課税総所得金額は前記認定の総所得金額から右所得控除額を差引いた金一八五万二三八六円であり、これに同所得税法第一三条所定の税率を適用すると所得税額は四八万三三〇〇円となるから、本件変更後の決定が右正当な金額の範囲内において所得税額を金四一万三八三〇円と決定したことには、これを取り消すべき違法は存しない。
(四) 無申告加算税
以上説示したところおよび原審証人大山綱信、同松井清、同大須賀俊彦の各証言によれば、控訴人が前記認定の総所得につき確定申告書を提出しなかつたことについて何ら正当な事由がないと認めるに十分であるから、旧所得税法第五六条第三項第三号第二六条第一項を適用し、前記認定の納付すべき所得税額金四八万三三〇〇円の一〇〇分の二五に該る金一二万〇八二〇円の無申告加算税を徴収すべきである。したがつて本件変更後の決定が控訴人に対し金一〇万三二五〇円の無申告加算税の賦課した点には取り消すべき違法は存しない。
(五) 重加算税
前記認定((一)2.)のとおり、控訴人は訴外長谷川正の依頼により同訴外人の所有土地の譲渡所得に対する課税を免れさせるため種々工作し、その対価として少なくとも金二〇〇万円の支払を受けたのであるが、前記甲第四号証および原審証人大山綱信、同松井清の各証言によれば、控訴人は右の収入が所得税課税の対象となることを熟知しながら、右工作手数料収入を隠蔽し、金銭出納帳にも記帳せず、税務当局の調査に対しても確証をつきつけられるまで自己の所有土地を売却したのであつて右訴外人の所有土地の売却について工作したのではない等と遁辞を弄し、右隠蔽の結果昭和三五年分所得の確定申告をしなかつたものであることを認めることができ、右不申告につき正当な事由が存しないことは前記(四)において認定したとおりである。
右の諸事実は旧所得税法第五七条第三項に該当するところ、同規定および前記所得税法施行規則第五四条に従い控訴人が賦課されるべき重加算税額を算出すると、別紙第三表記載のとおり金二〇万九三九〇円となる。したがつて本件変更後の決定が右の範囲内において控訴人に対し金一九万一五〇〇円を賦課した点にもまたこれを取り消すべき違法は存しない。
(昭和三六年分所得について)
(一) 事業所得
1. 仲介手数料
控訴人が昭和三六年中不動産取引業を営み、同年中に金五五万二八〇〇円の仲介手数料収入を得たことは当事者間に争いがない。
2. 売上金額
(イ) 控訴人がほか二名と共同して昭和三六年五月二九日春日井市庄名町字山之田所在の土地を売却し、代金中から金二〇一万一五〇〇円を収受したことは当事者間に争いがない。
(ロ) 成立に争いのない乙第七ないし第一六号証および原審証人大山綱信、同大須賀俊彦、同村田竹三郎の各証言によれば、控訴人は訴外井上ハナの氏名を無断で使用し同人名義をもつて昭和三六年九月二六日訴外加藤忝美から愛知県東加茂郡足助町大字月原字大洞七番の二、山林五反一畝歩、同所同番の三、山林一町五反歩および同所同番の四、山林五反歩の三筆の土地を代金合計金一二〇万円(地上立木を除く)で買い受けて所有権移転登記手続を受け、実地測量の上地積変更の登記手続を了した上更に分・合筆の結果同所同番の二、山林三町六反五畝六歩、同所同番の四、山林三町三反八畝二六歩および同所同番の一六、山林一畝二六歩の三筆とし、右のうち同所同番の四の土地を昭和三六年一〇月五日右井上ハナ名義をもつて訴外村田竹三郎ほか三名に対し代金一〇一万円で、同所同番の二および同所同番の一六の各土地を右同日右井上ハナ名義をもつて訴外福島二郎に対し代金一〇〇万円で、それぞれ売り渡し、その頃右代金全額を領収した事実を認めることができ、前記乙第一〇、第一三号証および原審における控訴人本人尋問の結果中右の認定に反する部分はいずれも前掲各証拠に比して措信し難く、他に右の認定を左右するに足る証拠はない。
(ハ) したがつて控訴人の売上金収入は以上合計金四〇二万一五〇〇円である。
3. 売上原価
(イ) 成立に争いのない乙第一九号証および原審における控訴人本人尋問の結果により成立を認めうる甲第二、第三号証の各一、二ならびに原審証人大山綱信の証言によれば、控訴人は前記2.(イ)の土地をほか二名と共同して昭和三六年二月一一日訴外山本平八郎ほか一名から代金一九三万三二〇〇円で買い受けてその三分の一の共有持分を取得し、右売買に関する測量費として金二万六五〇〇円、前記売却の際の仲介手数料等として金一五万円を各支弁し、右買受代金および費用の合計金二一〇万九七〇〇円の三分の一に該る金七〇万三二三三円の支払を負担した事実を認めることができ、前記原審における控訴人本人尋問の結果中甲第三号証の三ないし六が右土地の取引に関するものである旨の供述部分は右各書証の日付および記載内容にてらし措信し難く、また甲第二号証の三、四各記載の金額が右土地の売上原価となるものであることを認めるに足る証拠はない。他に右の認定を左右するに足る証拠はない。
(ロ) 控訴人が足助町大字月原所在の山林三筆を代金一二〇万円で買い受けたことは前記2.(ロ)に認定したとおりであり、原審における控訴人本人尋問の結果により成立を認めうる甲第三号証の六によれば、控訴人は右土地の変更、分筆等および測量に関する費用として金四万五〇〇〇円を支出した事実を認めることができ、また原審証人大山綱信の証言によれば控訴人は右土地の取得につき金三万三〇〇〇円の登録税を納付した事実を認めることができるから、右土地の売上原価は金一二七万八〇〇〇円である。右の認定を左右するに足る証拠はない。
(ハ) したがつて前記2.(ハ)の売上収入に対する売上原価は合計金一九八万一二三三円である。
4. 前記(昭和三五年分所得について)(一)1.6.に認定した諸事実および原審証人村田竹三郎の証言によれば、控訴人は昭和三六年中事務所の賃借料として毎月金八〇〇〇円宛合計金九万六〇〇〇円を支払つた事実を認めることができる。
被控訴人は同年分の自動車減価償却費が金一一万九七四三円であると主張するが、右償却費が右金額またはそれ以下であることを認めるべき証拠がなく、反面控訴人の主張する金一二万二三九〇円を不相当と認めるべき証拠もないから、結局右償却費は控訴人の主張額をもつて相当とすると認めるべきである。
5. 原審における控訴人本人尋問の結果により成立を認めうる甲第七号証および弁論の全趣旨によれば、控訴人は昭和三六年中に雇人の給料として金一二万円を支出した事実を認めることができる。
その余の必要経費が被控訴人主張のとおりであることは当事者間に争いがなく、以上を合計すれば控訴人の昭和三六年分事業所得の必要経費は金二八六万六二一三円となる。
6. したがつて控訴人の事業所得額は前記1.2.の合計金四五七万四三〇〇円から右必要経費を差し引いた金一七〇万八〇八七円である。
(二) 給与所得
控訴人の昭和三六年における給与所得額が金九万六〇〇〇円であることは当事者間に争いがない。
(三) 総所得金額および所得税額
控訴人の総所得金額は前記事業所得金額と給与所得金額を合計した金一八〇万四〇八七円であるから、本件更正決定が控訴人の昭和三六年分総所得金額を金九三万三三四五円と更正したこと は何ら取り消すべき違法がないというべきである。
ところで本件更正処分は控訴人の総所得金額を金九三万三三四五円と更正し、これに対する所得税として金一二万二五〇〇円を賦課するものであるが、右総所得金額に昭和三六年法律第三五号による改正後の所得税法(以下改正法と略称する)第一二条による基礎控除のみを行なつて同法第一三条所定の税率を適用するときは、所得税額は金一四万八三二五円と算出される。したがつて右賦課税額は控訴人の確定申告に基き同法所定の諸所得控除を行なつて得た課税所得金額を基準として算出されたものと認められる(成立に争いのない乙第一八号証の一および弁論の全趣旨によれば、控訴人には昭和三六年中において改正法第一五条の二ないし第一五条の八各所定の税額控除の事由は存しなかつたと認められる)から、右賦課税額に改正法第一三条所定の税率を適用して逆算すると、控訴人の課税総所得金額は金七四万円と算出され、前記更正にかかる総所得金額から右課税総所得金額を差し引いた金一九万三三四五円が控訴人に対する所得控除額であると認められる(端数計算上多少の差異はありうるが、以下の認定に影響はない)。
したがつて前記認定の総所得金額金一八〇万四〇八七円から右所得控除額を控除した金一六一万〇七四二円が正当な課税総所得金額であり、これに前記税率を適用して算出される金三七万六〇〇〇円が正当な所得税額であるから、本件更正処分が所得税額を金一二万二五〇〇円と更正した点には取り消すべき違法は存しない。
(四) 過少申告加算税
控訴人が昭和三六年分所得税額を金一一五〇円と確定申告した旨の被控訴人主張事実につき、控訴人は明らかに争わないから、これを自白したものとみなすべきである。したがつて本件更正処分による更正税額金一二万二五〇〇円と右申告税額との差額金一二万一一〇〇円が改正法第四七条、第五六条第一項所定の追徴税額に該当するところ、同法第五六条第一項所定の正当な事由が存することは本件全証拠によつても認められないから、本件更正処分庁が控訴人に対し右追徴税額の一〇〇分の五にあたる金六〇五〇円の過少申告税を賦課した点には何ら違法が存しない。
(結論)
してみると本件変更後の決定および無申告加算税、重加算税の各賦課処分ならびに本件更正処分および過少申告加算税賦課処分にはいずれも控訴人主張の違法は存しないから、右各処分の取り消しを求める控訴人の本訴請求は失当であつて棄却を免れないものであり、右と同一の結論に達した原判決は結局相当であつて、本件控訴は理由がない。
よつて本件控訴を棄却すべきものとし、控訴費用の負担につき同法第九五条、第八九条に従い、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 奥村義雄 裁判官 廣瀬友信 裁判官 大和勇美)
第一表 無申告加算税額算出表
<省略>
第二表 重加算税額算出表
<省略>
第三表 重加算税額算出表
<省略>